【book】蟲/坂東真砂子

蟲 (角川ホラー文庫)

蟲 (角川ホラー文庫)


知人に面白いからぜひ!と進められて読んでみました。
題名の通り、虫の話です。日本書紀に記されている秦河勝(はたのかわかつ)の伝承に出てくる話で、「常世虫」というものがある。東国、富士川のほとりに住む大生部多(おおふべのおお)が常世神として芋虫を祭る宗教を作り民衆の間で大流行するが、京都の太秦を拠点とする秦河勝に滅ぼされてしまう、というもの。常世神として祭られる芋虫、すなわち常世虫は橘の樹を好むのでアゲハチョウなのではないかと推測されている。その常世虫が13世紀の時を経てある男に宿ることで復活し、異変に気付いた妻がどうにか退治しようとする物語である。
と、こんな風に書くと、化け物に立ち向かう力強い女性の物語と勘違いされそうで怖い。内容はそうではないのです。
平凡な主婦として毎日を穏やかに過ごすめぐみ。夫は毎日仕事で遅く、めぐみは寂しいながらもお腹の子供と一緒に静かな夜を過ごしている。ある日夫は富士川のほとりで拾ったという、古い石の器のようなものを持ち帰ってくる。その日から徐々に夫の態度が急変、仕事熱心だった夫が早くに帰宅するようになる。皮肉屋だった性格も丸くなり優しくなる。一見良さそうに思える変化だが、めぐみにはそうは映らない。もしや浮気でもしているのかと跡をつけためぐみだったが、会社帰りの夫が向かった先は新宿のビルにある一本の橘の木であった。夫は幹に寄りかかり動かない。思わず声をかけた瞬間夫の首元から緑色の虫が這い出てきて・・・。
あーこの虫の場面が本当に気持ち悪かった!そして何より気持ち悪いのが、夫に虫が寄生し、性格がどんどん変化していくということ。傍目から見ると良い変化でも、傍にいる人にとっては気持ち悪いことこの上ない。腹が立つ性格でも、それがその人の一部分であったはずなのに、それがなくなるということはそこにいる彼は何者?という話になる。でも外見は何も変わらず今までのまま。気持ち悪いですねー。
つまり常世虫というのは人の心を食らう虫として描かれているのですが、その心というのがなくなると老人のような平穏な心持になってしまうのです。無欲で恐怖もなく、執着心や歓喜もなく。残るのは無関心という優しさと穏やかさ。うわー嫌ですね。すごい気持ち悪い。でもそんな風に思っていても、自分が虫に食われるとそんな感情もなくなっちゃうんですよ。うわー。
主人公が女性であるということが、より私を引き込ませたのだと思います。将来旦那が今までとは違う、知らない旦那になるなんて怖くて信じられません。あまりの心理的な恐怖に、何度本を机に置いて一服したかわかりませんよ・・・。
おすすめされただけあります。面白かった!